ピアノを始める前の準備のススメ
先日公開した動画の原稿をそのままこちらに投稿します。
はじめに
こんにちは。ピアノ調律師の関勝史です。
今日の動画は、「ピアノに使ったお金の元を取るには」ということでお話をさせていただきます。
私はピアノの調律師として多くの方にピアノを買っていただいたり、調律のお仕事をさせていただいたりしています。
ピアノを始める前の不安と現実
そこでお客様からよく聞くのが「ピアノをいつまで続けるのか分からないから、高価な買い物になるし購入に踏み切るか悩む」という声なんです。
実際にせっかく買っても、ピアノを辞めてしまう人が残念なことに多いのです。それは塾だったり、受験だったり部活だったり、他のことが忙しくて、ピアノに時間を割くことができなくて辞めていくというものでした。
ピアノを辞めてしまうと、楽器代ですとか、ピアノ教室に払ったレッスン代とか、教材の費用等の結構なお金が水の泡と消えてしまうのはもったいないので、無駄にしないためにはどうしたらいいのか、を長いこと考えてきました。
中には小さい頃だけピアノを習っていれば充分という声もありますが、脳科学の分野ではUse it or Lose itと言われていて、使わないものは忘れられていくっていわれていて、例えば小さい頃海外に住んでいて英語を話せたけど、帰国してしばらくしたら忘れた、というのはよく聞く話ですし、小さい頃にいっときやったものがその後もずっと役立っていくのかと言われれば疑問ですし、やっぱりもったいないと思うんですね。
元を取る
それで元を取るとはどういうことかなんですけれども、ここでは「習慣的にピアノを弾くことが身に付いたら、そこで元は取れている」とします。中には高校受験を有利に進めるためにコンクールで賞を取れたら目的達成とする方とかもいますけど、ここではピアノを弾く習慣がつくことを一定の成果とします。
ピアノを弾く習慣といっても、ショパンやベートーベンのような大作曲家の大作を弾きこなすところまで行かなくても、例えば保育園や幼稚園の先生が子供たちと歌う伴奏をする程度なら、ほとんどの人ができるようになると考えています。そこまでの技術が身に付いていれば、結構音楽で遊べるようになると思います。
この動画では、私のピアノ調律師として見聞きしてきた経験、ピアノファンとして音楽を楽しんできた者として、こんな方法はどうかという提案をしてみたいと思います。
2つのポイント
ピアノを始める前にやっておきたい準備が1つ目⬅️今回はこちら
2つ目は始めてからのピアノや音楽との向き合い方です
①環境づくり
まずピアノを始める前にやっておきたい準備は、普段からピアノ音楽を聴いている環境作りと歌を歌っているかということをあげたいと思います。
小さい子が「ピアノを弾きたい」という事はよくあるんですけれども、誰かがピアノを弾いているのをたまたま見てちょっと真似したいと思った程度なのか、やはり日常的にピアノ音楽が耳に入っていていつも心の中で音楽が流れているかが1つの分かれ目になると思うので、普段から聴いているとか歌っているというのは大きく影響すると思います。実際にそういう例もありましたので、それは「ピアノを始めてから」の動画で取り上げさせていただきます。
ただ、後にもお話ししますけれども、「ピアノを弾くこと」自体が好きになるかどうかは本人次第なので、どうしてもコントロールできないところはあると思います。僕個人の話ですが、僕はアウトドアをあまり進んでやろうとは思わないんですね。どうしても必要な環境に置かれたらできるとは思いますけれども・・・というのも、昔先輩に夜釣りに沖釣りに連れて行ってもらったことがあったんですけれども、あのときの僕の感想は遊びっていうよりも労働でした。その経験があるから、ピアノを弾くことを好きになろうといっても、やはりこれはどうしても好みの問題なので思い通りにはできないかもしれないという事は頭の念頭に置いていただきたいです。
②適性
ピアノを始める前の準備がもう一つあって、それは「体の準備」です。
ピアノを弾くとは・・・
そもそもピアノを弾くって一口にいいますけど、具体的にどういうことをしているかというと、目で楽譜を見て情報収集するのが1つ、取り入れた情報を今度は鍵盤上での指の動作に変換して動かすのが2つ目、実際に出た音を耳で聞いて確認するのが3つ目、そしてテンポに乗せて時間制限がある中で、これらの作業をぐるぐるこなしていくのが4つ目です。だから僕が考えるピアノを弾くという事は、視覚、触覚、聴覚、そしてリズム感の4つを伴う脳にとても負荷のかかるマルチタスクなんですね。
過去に脳トレとしてのピアノ攻略というお話を動画で紹介させていただきましたのでよろしければそちらもごらんください。
発育に合わせて
それで、体の準備なのですが、鍵盤を押すのは小さい子でもできますけど、音楽を演奏するという複雑な動きに対応できる段階まで発育が進んでいるか、がとても大事です。
ムジカノーヴァという雑誌の記事で脳科学者の古屋晋一さんがおっしゃっているのは、発育に合わせてできるようになることがだんだん増えていく中で、両手を独立して動かせるようになるのは大体10歳位と説明しています。
私個人の経験を加えさせていただくならば、楽譜を見て音楽の展開を自分でイメージしながら鍵盤上で再現していくという作業は小学1年生でできる子もいれば、3年生位からできるようになる子もいて様々です。
それから、楽譜を読むのが上手でも指を動かすのが苦手だったり、逆もありますし、耳で聴いて音を探したり、適性がさまざまなので、早いうちからとりあえずピアノ教室に通って一生懸命練習すればピアノが弾けるようになるというのはすべての人には当てはまるのかと言われればそれは疑問です。
「練習」するべき?
で、今練習という言葉が出ましたが、この練習と言う単語が大問題です。人間の脳は楽をする事を優先して、頑張るのは自分の身に危険が及んだときとプログラムされています。ピアノはできなかったところで命の安全とは無関係なので、練習なんて三日坊主で当たり前なんです。脳に大きな負荷がかかるマルチタスクを強要すればストレスになってしまうので、「練習しよう」と課題にしたら、やはりピアノが嫌になってしまう可能性が高いです。
そのために先ほども申し上げましたように、普段からピアノを聴いていて、ピアノに慣れ親しんでいることが大切ですし、ピアノのメロディーが心に残っていれば、それが憧れになったり、実際にそのメロディーを奏でられたときに、大きな達成感になります。
そうした願望に向かって行動した結果が「練習」であって、到達したい目標が定まっていないのに、闇雲に訓練することは練習と言うより苦行になってしまいます。
向き不向き
それから、発育とは違うところで、身体的な適性や性格の適性と言うのもあるのではないかと考えます。ピアノは好きになれなくても、他の楽器は好きになる可能性はあるんですね。例えば、管楽器や弦楽器のようなフロントマンになるようなポジションが好きになる人もいるかもしれないですし、ピアノのように音楽全体を表現できるような楽器が好きになるかもしれない。もしかしたら指揮者になって多くのミュージシャンを率いて1つの壮大な音楽をオーケストラとして奏でる事に長けた人物もいるかもしれないです。
サッカーで言えば、点を取りに攻めることに向いてる人もいれば、相手を迎え撃つ守りに向いている人、プレイヤーとしての成績はなくても監督としては実力を発揮する人など、適正は別れます。
一概に音楽=ピアノと判断せず、いろんな楽器に触れる機会があると良いですし、その中で、私は個人的に小さい子には、ヴァイオリンが有効であるという動画紹介していますので、よろしければ、そちらもご覧ください。
ここまで環境作り、適性を見るという視点で、ピアノを始める前の準備についてお話ししましたが、もう一つ大切な準備があります。
③能動的・主体的な日常生活
それは音楽とは関係ない、日常生活のことで、けっこうヘビーな内容になるんですけど、日ごろから自分の身の回りのことを自分でやっているかどうか、が大きく左右すると考えています。実はこれが1番大切なことだと考えています。
先ほども申し上げましたように、ピアノを演奏するという事は、脳にとても負荷のかかる作業です。普段から音楽を聴いていて、音楽に親しんでいる環境があれば入りやすいというものももちろんありますが、やはりその負荷のかかる面倒な作業を「自分でやる」という習慣がついているのがとても重要です。
「学校の当たり前をやめた」という著書で有名な工藤勇一先生
がおっしゃっているんですけど、もともと子供というのは、自分がやりたいことしかやらない主体的な生き物であると。でも今の子供たちはとても手をかけられていて至れり尽くせりの環境で育てられていると。周りの大人が何でもやってあげたり、あれをしなさいこれしなさいとか、あれはダメだとか制限され続けていくと、子供は自分で考えて自分から行動することをやめてしまう、ということをお話ししています。
誰かにやってもらえる事が当たり前にっなって、自分のことを他人事のように言う子って多いと感じています。実際に、あるお子さんと楽譜を読む練習をしようということで音符をさしたら、横にいる保護者さんの方を見て、SOSを求めるということがあったんですね。好奇心はあって、ピアノ以外の視界に入るものに「あれは何これは何」といろいろ質問してくる子で、最初は答えていたのですが、あるときから「何だと思う?」と聞き返して自分で考えさせようとしたら、その話からは外れて他の話題に変えてしまうんですね。誰かから答えをもらうことが習慣付いていて、自分で答えを探そうという行動力が削がれているんだなぁと感じました。この辺については、過去に南国ピアノスタジオのブログで「優秀なスタッフの条件」という記事を投稿してるので、よろしければそちらをご覧ください。
逆に、普段から自分のことを自分でする習慣がついている子はピアノという課題が目の前に現れたときに、じゃあこれをどういう風にしたらできるようになるだろうというふうに思考して行動する習慣がついています。音符が何なんだとか指はどうやって動かしたら次の鍵盤へ届くだろうかとか主体的に動いて試行錯誤する習慣がついているんですね。もちろん最後までできないこともありますけれども、人を頼る前にまずは自分でやってみようという一歩の違いは大きいです。これは、ピアノを始めた後の音楽やピアノとの向き合い方に大きく影響してきます。
自分のことを自分でする習慣の例を極端ではありますが一つ紹介させていただきます。
あるお母さんがパートで朝早く出て行くから、子供たちが目を覚ましたときにはお母さんはいなくて、子供たちは自分で朝ごはんを支度して、自分で食べて、自分で身の回りの準備をして学校へ行くというご家庭があります。お母様は「うちは基本放置ですから」と笑いながらおっしゃってるんですけど、とても行動力があって自分で考えて取り組む習慣のついているお子さんです。この子についてのエピソードは、後半の動画でも紹介します。
おわりに
ここまでで紹介したことは、僕が知っていることや見聞きした事なので、おそらく世の中のほんのごく一部のことでしょうし「それってあなたの感想ですよね」と言われれば、それまでかもしれないですが、ピアノの調律師として、いろんなご家庭の話を聞いたり、いろんなピアノの先生の話を聞いたり、調律師同志で情報交換をしたり、また自分自身が教える身になって子供たちと向き合ってきて得た現時点での思いです。
ただ、ある児童福祉のお仕事をしていらっしゃる方に「ピアノを弾けるようになるかどうかの決め手は家庭環境がほとんどだと思うんですよね」とお話ししたら「全くその通りだと思いますよ」って言葉が返ってきたので、専門家の方がそう言うのであれば、あながち自分の考察は間違ってないのかなあというふうにも考えています。
今日の動画はここまでになりますけれども、この次の「ピアノを始めてからの音楽やピアノとの向き合い方」のお話は、ここで取り上げさせていただいた環境作り、適性、そして自分のことを自分でする習慣がまた大きく影響してきます。
ピアノに使ったお金の元を取るということでお話をさせていただきましたが、ピアノを弾く習慣が身につけば、他の学業やお仕事などにも良い影響をもたらすと考えています。
というのもニューヨークタイムスの記事で、「世の中で成功していると言われている人の多くが楽器を演奏する」という記事がありますますし、日本でもスポーツ選手や芸能人やビジネスマンや政治家の人がピアノを弾くという話はけっこうあります。もしよろしければ「ピアノを弾ける有名人」などで検索してみてください。
楽器を演奏するという事はできないことをどうやってできるようにしていこうかという問題解決のプロセスです。ピアノ自体は高いお金を払っての買い物になりますが、楽器が演奏できるという特技は、他に変えがたいかけがえのない能力になるのは間違いないです。
なので、僕の仕事は楽器を販売したりお手入れすることですけど、売って終わりじゃなくて、楽器を買ってくださる方が有効活用するための情報を出来る限り紹介していきたいと思いますので、面白いなと思ってくださった方はチャンネル登録をしていただいてグッドボタンを押していただければありがたいです。後日改めてピアノを始めてからの音楽との向き合い方について解説する動画を作りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ご視聴いただきましてありがとうございました。